やツツーと一つ扱きましたが、成程夫れは蛇では無くて三尺ばかりの古縄でした。
「ワッハッハッ」
 と老人は笑う。見物は安心して寄って来る。次なる芸当が始りました。
「エイ」
 と鋭い気合と共に老人は古縄を復《また》扱きましたが夫れを右の掌へ立てると一本の樫の棒となりました。
「延びろよ延びろよ、延びろよ延びろよ!」
 恰も歌でも唄う様に老人は大声で云うのでした。と、是は又何たる奇怪! 三尺ばかりの樫の棒が其老人の声に連れてズンズンズンズンズンズンと蒼々と晴れた早春の空へ延びて行くではありませんか。
 空の一所に雲がある。その雲の中へ棒の先は軈て這入って行きました。
「さて」
 と老人は笑い乍ら見物をジロジロ見渡しましたが
「もう徐々金を投げても宜かろう。容易に見られぬ芸当じゃ。何をニヤニヤ笑っているのだ。一文無しの空尻かな。只匁で見るつもりかな。そいつは何うも謝るの。……それとも芸当が気に入らぬか? よしよし夫れでは最う一息アッという所を見せてやろう。それで今日はお終いだ。もし芸当が気に入ったら幾何でもよい金を投げろよ。俺も大道芸人じゃ。只見されたでは冥利に尽きる」
 斯う云い乍ら老人は
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