つ笑いましたが、
「これ集まったやくざ[#「やくざ」に傍点]者共、何を馬鹿顔を為て居るぞ。いつもの芸当を見たいそうな。……ところが左様は問屋で卸さぬ。碌な見料も置いていかずに面白い芸当を見ようとするのは取も直さず泥棒根性。眼保養の遣らずぶったくり[#「ぶったくり」に傍点]だ。そういう奴は出世せんぞ。まごまごすると牢屋へ入れられる」
斯う大口を叩いたものです。
しかし集まった見物人が別に怒りもしないところを見ると斯ういう調子には慣れているのでしょう。中には老人の其悪口が面白いとでもいうように笑っている者さえありました。
軈て老人は立ち上がると側に在った縄を取り上げてピューッと高く空に投げ上げ落ちて来る所を右手で受け其儘クルクルと輪に曲げましたが、
「それ、よいか、驚くなよ」
斯う云い乍ら岩の上へ置くと、何んと不思議ではありませんか、その縄が一匹の蛇と成ってヌッと鎌首を持ち上げたものです。
「ワッ」
と見物は叫び乍ら逃げる。それを冷かに見遣り乍ら、
「これこれ見物逃げるには当らぬ。蛇では無い是は縄だ」
云い乍ら老人は手を延ばしひょい[#「ひょい」に傍点]と其蛇を取り上げると見る
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