々々。よし今度は俺の番だ」香具師は矢庭に大声を上げた。「城の方々お出合いなされ、大盗雲切仁左衛門が、大岡越前守に姿を変え、ご金蔵の金を奪おうと、お城へ入り込んでございますぞ!」
 足踏の音、襖を開ける音、股立をとり襷がけ、おっ取り刀の数十人の武士が、今度こそムラムラと現れた。
「雲切仁左衛門、神妙にしろ」
 越前守を取り巻いた。
「ええ、オイ、雲切、どうだどうだ!」
 香具師は愉快そうに笑い出した。
「俺の威光はこんなものさ。鶴の一声利目があるなあ。だが貴様には不思議だろう。俺の素性が解るめえ。……貴様も年貢の納め時、首を切られて地獄へ行き、閻魔《えんま》の庁へ出た時に、誰に手あて[#「あて」に傍点]になったかと聞かれて返辞が出来なかったら、悪党冥利面白くあるめえ。よし、それでは知らせてやろう!」
 片手でツルリと顔を撫でた。と、温室の老人がツルリと顔を撫でた為め、顔が一変したように、香具師の顔も一変した。燐のように光る切長の眼、楔形をした鋭い鼻、貝蓋のような[#「ような」は底本では「やうな」と誤記]薄い唇、精悍無比の若者の顔が、お道化た香具師の顔の代りに、其処へ新たに産れたのであった
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