ったものと思われる。成程なあ、あの老人流石に可い事を教えてくれた。こう覿《てき》面にあの薬が、利目があろうとは思わなかった。兎まれ天主閣へ上れるなら、こんな有難え事はねえ。いよいよ大願成就かな」

 大須観音境内は、江戸で云えば浅草であった。
 その附近に若松屋という、二流所の商人宿があった。
 久しい以前から其宿に、江戸の客が二人泊っていた。帳場の主人や番頭は多年の経験から二人の客を、怪しいと睨んでいた。
「どうも商人とは思われないね」
「と云って職人では勿論無し」
「そうして、二人は、友達だと云うが、そんなようにも見えないね」
「あれは主従に相違ありません」
「主人と思われる一人の方は、お大名様のように何となく威厳があるね」
「いや全く恐ろしいような威厳で」
「二人とも立派なお武士《さむらい》さんらしい」
「ひょっとかすると水戸様の、ご微行かなんかじゃあ有りますまいかな。それ一人は光圀様で、もう一人が朝比奈弥太郎」
「莫迦をお云いな、何を云うのだ。水戸黄門光圀様なら、とうの昔にお逝去れだ」
「あっ、成程、時代が違う」
「それは然うと今日はやって来ないね、いつも遣って来る変な老人は」
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