、古書から少しく抜萃《ぬく》ことにしよう。
二
「……諸事凡て江戸、大阪等、幕府直轄地同様の政治をなさんとせり。されば同年七月の盆踊には、早くも掛提灯、懸行燈《かけあんどう》等の華美に京都祗園会の庭景をしのばしめ、一踊りに金二両、又は一町で銀五十枚、三十枚、十五枚を与えて、是を見物するに至れり。嘗て近江より買ひ入れたる白牛に、鞍鐙、猩猩緋の装束をなし、御頭巾、唐人笠、御茶道衆に先をかつがせて、諸寺社へ参詣したりといふ。更に侯の豪華なる、紅裏袷|帷子《かたびら》、虎の皮羽織、虎の皮の御頭巾を用ひ、熱田参詣の際の如き、中納言、大納言よりも高位の御装束にて、弓矢御持ち遊ばされ、御乗馬御供矢大臣多く召連れたり。供廻り衆の行装亦数奇を極め、緋縮緬、紅繻子等の火打をさげ、大名縞又は浪に千鳥の染模様の衣服にて華美をつくしたり。
遊芸音曲の類を公許し、享保十六年には、橘町の歌舞伎の興行を許し、侯自らも見物するに至れり。従来かつて無かりし遊女町を西小路に起し、翌年更に是を富士原、葛原に設け、それより栄国寺前、橘町、東懸所前、主水《かこ》町、天王崎門前、幅下新道、南飴屋町、綿屋町等にも、京
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