しょう」こう彼は継友に云った。
その夜宗春は金太夫を召し寄せ、手ずから茶を立てて賜わった。金太夫が茶椀を捧げた途端「えい!」と宗春は一喝した。驚いた金太夫は茶椀を落し、宗春の衣裳を少し穢した。
「無礼者め!」と大喝し、宗春は一刀に金太夫を斬った。「それ一族を縛め取れ!」
そこで、一族は縛め取られ、不敬罪の名の下に、一人残らず殺された。
「宗春、よく為た。礼を云うぞ」継友は衷心から、喜んだものである。
その継友も八年後には、コロリと急死することになった。その死態が性急だったので、一藩の者は疑心を抱いた。「将軍吉宗の計略で無いかな?」――それは実に大正の今日まで、疑問とされている出来事であった。
臨終にのぞんで継友が云った。「宗春には恩がある。あれ[#「あれ」に傍点]を家督に据えるよう」
こういう事情で宗春は尾州宗家を継いだのであった。
爾来尾州家は幕府に対して、好感を持つ事が出来なかった。その上宗春は活達豪放、英雄の素質を持っていた。で事毎に反対した。
「ふん、江戸に負けるものか。江戸と同じ生活をしろ」
彼は夫れを実行した。如何に彼が豪放であり、如何に彼が派手好きであったか
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