下さいやした。どういう風の吹き廻わしか。中納言様にもお目通り致し、今日は可い日でございましたよ。……尾行《つ》けて来なさるとは先刻承知、ナーニ実はわっち[#「わっち」に傍点]の方から、此処までご案内したんでさあ。此処はね、旦那、わっち[#「わっち」に傍点]に執っちゃァ[#「ちゃァ」は底本では「ちやァ」と誤記]、住居でもあれば工場でもあり、隠家でもありやァ[#「ありやァ」はママ]本陣でもあるんで。……が、一番似つかわし[#「つかわし」に傍点、傍点位置はママ]いのは、矢張り工場という言葉でしょうね。まあご覧なせえ向うの部屋を」

     六

 香具師はペラペラ喋舌《しゃべ》り立った。九兵衛はすっかり煙に巻かれ乍ら、隣の部屋へ眼を遣った。まさしく其処は工場であった。大工の道具一式が、整然として並べられてあった。そうして巨大な檜丸太が幾十本となく置いてあった。
 模型は其部屋で作るのらしい。が、それは可いとして、煙突のような黒い物と、壁から突き出た鉄棒とは、一体何ういう物なのだろう?
「城内の旦那のご入来だ。せめてお茶でも出さずばなるめえ」
 こう云い乍ら香具師は、天井から下っている一筋の
前へ 次へ
全86ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング