の点から云う時は、変った所も無いのであるが、天井から様々の綱や糸や、棒や鉄棒が釣り下げられていた。そうして太い煙突が、簀子から天井を貫いて、屋根の上まで突き出ていた。と思うのは間違いで、実は夫れは煙突では無く、煙突の形をした何かなのであった。円周四尺直径一尺、総体が黒く塗られていた。そうして根元から五寸程の所に、斜めに鏡が嵌め込まれていた。
 戸外に面した壁の一点に、棒のような物が突き刺されていた。その端が坐っている香具師の口の辺へ真直に突き出されていた。そうして其先が漏斗《じょうご》型をなし、矢張り黒く塗られていた。
 簀子の上には様々の模型が、雑然紛然と取り散らされてあった。屋根の模型、大砲の模型、人形の模型、動物の模型、鳥の模型、魚の模型……そうして今日の飛行機の模型、そうして今日の望遠鏡の模型、そうして今日の竜吐水《ポンプ》の模型……地球儀の模型、螺旋車の模型、軍船の模型、楽器の模型、磁石の模型、写真機の模型……玩具屋の店へでも行ったように、無雑作に四辺に取り散らされてあった。
「おおおおお侍さん何うしたんだい。場銭は取らねえ。お坐りなせえ。さて小林九兵衛の旦那、ようこそおいで
前へ 次へ
全86ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング