連れ、弓師左衛門の家へやって来た。
左衛門夫婦も挨拶に出て雑談に時を費したがいつもの時刻に近付くと怱々《そうそう》夫婦は引き退り後には主馬と朋輩の武士と忠蔵達が五、六人店を通して土間の見える職人部屋に残っていた。
夜はしんしんと更けて来た。何となく物凄く思われるかして主馬を初め集まっている者は、次第に言葉数が少くなった。とその時表戸をトントントントンと叩く音がする。ハッと皆は眼を見合わせむっ[#「むっ」に傍点]と一時に呼吸《いき》を呑んだ。
それでもさすがは武士だけに主馬は躊躇《ちゅうちょ》もせず立ち上がり、がちり[#「がちり」に傍点]と閂《かんぬき》を取り外した。まず細い手があらわれる。それから半身が浮き出して来る。泳ぐような歩き方ではいって来るとその老武士は云うのであった。
「弓弦《ゆづる》を一筋……」と消えるような声で、
「ヘーイ」
と忠蔵は顫えながら云った。
「小中黒の征矢三筋……」
「ヘーイ」
と忠蔵はまた応じた。
くるり[#「くるり」に傍点]と老武士は方向《むき》を変えると吸われるように潜戸《くぐり》の隙から戸外《そと》の夜の闇にまぎれ込んだ。
「方々」と主馬は
前へ
次へ
全17ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング