に精悍の気象、十三郎スルスルと進み出た。


 据わった腰、見詰めた眼、溢れようとする満腹の覇気スルスルと進み出た十三郎に押され、土岐与左衛門圧迫を感じ、タッタッと三足ほど退いたが、やや嗄声《かれごえ》で、
「さあ方々!」
 声に応じて三四十人、与左衛門の部下一斉に、刀を抜いたがグルグルグル、深見十三郎を引っ包んだ。
「卑怯《ひきょう》!」と叫んだは十三郎の部下、これも一斉にすっぱ抜くと、与左衛門の部下を押しへだて、ジ――ッと、一列に構え込んだ。
 まさに太刀数六七十本向かい合わせてぴたりと据わり、真剣の勝負、無駄声もかけずただ、位取った刀身が、春陽をはねて白々と光り、殺気漂うばかりである。
 旗本奴《はたもとやっこ》と町奴《まちやっこ》、それと並び称された浪人組、衣裳も美々《びび》しく派手を極め、骨柄いずれも立派である。その数合わして六七十人、真昼間の春の盛り場で、華やかに切り合おうというのである。
 凄くもあれば美しくもある。
 遠巻きにした群集達。一時に鬨作って逃げ出したが、さらに一層遠くへ離れ、勝敗はどうかと眺めている。
 気の毒なのは店屋である。バタバタと雨戸を引いてしまっ
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