兵衛、夢の市郎兵衛、そんな手合もございます。お預け下せえお預け下せえ。それとも」と云うと腕を組んだ。
「仲裁役には貫禄が不足、預けられぬと仰言《おっしゃ》るなら、裸体《はだか》で飛び込んだが何より証拠、とうに体は張って居りやす。切り刻んで膾《なます》とし、血祭りの犠に上げてから、喧嘩勝手におやり下せえ。息ある限りは一歩ものかねえ、そこは男だ、一歩ものかねえ。さあさあ預けて下さるか、それとも、膾に切り刻むか、ご返事ご返事、聞かせて下せえ!」
男を磨く町奴。ドギつく白刃の数十本の中で、小気味よく大音を響かせた。
ワ――ッと群集のどよめいたのは、その颯爽たる男振りに、思わず溜飲を下げたのであろう。
3
気を奪われた浪人組、互いに顔を見合わせたが、そこは老功の与左衛門である。けっく[#「けっく」に傍点]幸いと考えた。
「こいつはいっそ[#「いっそ」に傍点]任せてしまえ」
そこで抜身をダラリと下げ、ツト進み出ると、云ったものである。
「これはこれは弥左衛門殿か、お名前はとうから存じて居ります。争いの仲裁まずお礼、いや何原因も知れたことで、折れ合おうとすれば折り合います。またお顔を立てようとなら、無理にも折り合わなければなりますまい。それにしても実に大力無双、殊には裸体で突っ立たれたご様子、洵《まこと》に洵に立派なもので、そういうお方にお任せし、事を穏便に治めるは、我々にとっても光栄というもの、但し果して深見氏の方で」
すると十三郎もズット出た。
「いや拙者とて同じでござる。弥左衛門殿のお扱いなら、なんの不足がございましょう。白柄組とか吉弥組とか、旗本奴の扱いなら、とかく何かと言っても見たいが、長兵衛殿のお身内なら、我々にとってはむしろ味方、弥左衛門殿のご高名も、かねがね承知致して居ります。土岐氏においてそのおつもりなら、スッパリ何事もあなた任かせ!」
「ま、任せて下さるか……」
弥左衛門喜んで辞儀をした。
「それでは何より真っ先に、抜いた白刃を元の鞘へ」
「よろしゅうござる」と土岐与左衛門、部下の一同を見廻したが、
「な、方々聞かれるような次第、さあさあ刀をお納め下され」と自身パッチリ鞘に納める。
「貴殿方にも」と十三郎「刀をお納めなさるがよろしい」――で、パッチリと鞘に納める。
血の雨の降るべき大修羅場は、こうして平和に治まったのである。
「こうなったのもこ
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