飛んで行った。
「大変だ大変だ。逃げて行く! ……おっ、一人は小僧ッ子だ!」
「どれどれ」と一ツ目も覗いたが、「一人は民弥だ! 一人は猿若!」
「それじゃア猿若が裏から忍んで、助け出したに違いない! とんでもない小僧だ、うっちゃっては置けない」
 バタバタと駈け下りた人買共は階下へ下りると叫び立てた。
「親方、やられた、攫われた!」こう云ったのは勘八である。

「何を!」と立ち上ったは柏野の里の桐兵衛、「何だ何だどうしたんだ?」
「何だじゃない、大変だ、あの小僧ッ子の猿若めが、民弥を攫って行ったんだよ!」
「え、ほんとうか、途方もねえ話だ! あんな素晴らしい上玉を、あんな小倅に横取られた日にゃア、俺らの商売は成り立たない! さあさあ皆な追っかけろ!」
「それ!」と云うと人買共は親方の桐兵衛を真先に、裏口から一散に走り出したが、もうこの頃には民弥と猿若は、数町のあなたを走っていた。
「さあさあ民弥さん、お走りお走り! ぐずぐずしていると取っ捉まる。取っ捉まったらもういけない。それこそ酷い目に逢わされる。売られるだろう売られるだろう。それも遠くへ売られるのだ。二度と都へは帰れない。……おや
前へ 次へ
全125ページ中99ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング