、グッと逆手に返されたのである。
「さてはお前達は悪人だね!」
いわゆる裂帛の声である! 勘八を向うへ突き倒し、その手を帯へ差し入れたが、抜いて握ったは嗜《たしな》みの懐刀、振り冠ると凜々しく叱咤した。
「そうとも知らず連れ込まれたは、妾《わたし》の油断には相違ないが、ムザムザ手籠に逢うものか! 武士の娘だ、あなどってはいけない!」
壁を背後《うしろ》にピッタリと背負《しょ》い、褄《つま》を片手にキリキリと取り上げ、振り冠った懐刀に波を打たせ、荒くれ男の十数人を、睨んだ様子というものは、若くて美しい娘だけに、凄くもあれば立派でもあった。
驚いたのは人買共である。
23[#「23」は縦中横]
一整《いっせい》に立ち上ったが呶鳴り出した。
「油断をするな、大変な娘だ!」
「一度にかかって手捕りにしろ!」
「相当武芸も出来るらしい。甘く見込んで怪我するな」
そこで一同ダラダラと並び、隙を狙って飛びかかろうと、民弥の様子をうかがった。
飛び込んで来い! 叩っ切る! 敵《かな》わぬまでも防いで見せる! そうして一方の血路《けつろ》をひらき、この屋敷から逃げて見せる! ――民弥は民
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