う云ったのは一ツ目であった。
続いて勘八が声をかけた。「素敵な玉でございますなあ」
「ざっと[#「ざっと」に傍点]した所がこんなものさ」老人は凄じく笑ったが、娘の方を振り返った。「何とか云ったね、民弥さんか! 大概は見当が付いたろうが、ここに居るのは人買だ。そうしてここは人買宿、そうして私は人買の頭、柏野の里の桐兵衛《きりべえ》だよ。……もう、いけない観念おし、どんなに泣こうが喚こうが、ここへ一旦来たからには、一足も外へは出られない。と云って殺すというのではない。当分大事に飼って置き、行儀作法を教えてから、遠国の大名や金持や、廓の主人へ売り渡す。……ナーニ大して心配はいらない。ちょっと心さえ入れ変えたら、案外立身出世もする。だからよ、万端、委《ま》かして置きな。……オイ野郎共!」と手下を見た、「二階へ連れて行くがいい、手に余るほどあばれ[#「あばれ」に傍点]たら、体に傷の付かぬよう、革の鞭で手足を引っ叩け!」
「合点《がってん》」と云って立ち上ったは、例の小男の勘八であった。
「さあ娘ッ子、二階へ行こう」
むっと民弥の手を取ったが、その結果は意外であった。あべこべに民弥に腕を取られ
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