たら、その人に縋って助けて貰おう、そんなように思っているのであった。
「成程々々、大事なお方で。……何というお名前でございますかな?」
「森右近丸様と申します」
「おやおや左様でございましたか。それはまことに幸いで、そのお方ならこの老人が居場所を存じて居りますよ」
「まあ」と云ったが娘の民弥は、驚きもすれば喜びもした。
「それでは本当にお爺様には森右近丸様の居場所を、ご存じなされて居りますので?」
「はいはい存じて居りますとも。実はな、お嬢様、こういう訳で」

21[#「21」は縦中横]

 それからベラベラと喋舌《しゃべ》り出したが、云う迄もなく出鱈目らしい。
「いや全く右近丸様ときては、立派なお方でございますなあ。……へいへい私の親類なので、甥にあたるのでございますよ。ええと年は三十五で……え? 何ですって、違いますって? アッハッハッ、さようさよう、三十五になんかなるものですか。ええと数え年十九歳で。……え、何ですって? 違いますって? さようさよう大違いで、アッハッハッ、ごもっとも。二十三歳でございますよ。……非常な美男で、剣道も達者で、浪人の身分ではありますが。……え何ですっ
前へ 次へ
全125ページ中82ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング