世を諷し、信長を譏り、森右近丸を飜弄した、あの時の巫女とそっくり[#「そっくり」に傍点]である。そっくり[#「そっくり」に傍点]どころかその女なのである。
だがどうしてその女が、こんな寂しい森の奥に、一人で住《す》んでいるのだろう? まったく寂しい森である。巨木が矗々《すくすく》と聳えている。枝葉がこんもり[#「こんもり」に傍点]と繁っている。非常に大きな苔むした岩や、自然に倒れた腐木《くちき》などが、森のあちこちに転がっている。
女の坐っている後方にあたって、一点の燈火《ともしび》がともっている。ぼっと[#「ぼっと」に傍点]その辺りが明るんで見える。何でもなかった、燈明《とうみょう》なのであった。そこに一|宇《う》の社があり、そこの神殿に燈されている、それは一基の燈明なのであった。
何という古風な社だろう! その様式は神明造《しんめいづくり》、千木《ちぎ》が左右に付いている。正面中央に階段がある。その階段を蔽うようにして、檜皮葺《ひはだぶき》の家根《やね》が下っている。すなわち平入《ひらいり》の様式である。社の大いさ三間二面、廻廊があって勾欄《こうらん》が付き、床が高く上ってい
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