ますまい!」
「これは如何にもご尤も! それでは一緒に!」
「右近丸様!」
「おいでなされ!」
と走り出た。続いて民弥も女ながら、一所懸命の場合である。小褄《こづま》を取ると嗜《たしなみ》の懐刀、懐中《ふところ》へ入れるのも忙しく、後に続いて走り出た。
15[#「15」は縦中横]
ここは五条の橋である。
今、宵月に照らされて、フラフラ歩いて来る人影がある。古道具買に身を※[#「にんべん+肖」、第4水準2−1−52]《やつ》した、香具師の親方の猪右衛門である。両手に人形を持っている。非常に非常に機嫌がよい。独り言を云っている。
「こんなに楽々と苦労もなく、唐寺の謎を持っている。奈良朝時代の貴女人形を、手に入れようとは思わなかったよ。運がよかったというよりも、俺に才智があったからさ。……さて所で人形だが、物を云うということだが、どうしたら物を云うだろう?」
人形の手を引っ張って見た。が、人形は物を云わない。そこで足を引っ張って見た。が、人形は黙っている。今度は首を捻ってみた。しかし人形は音を出さない。
「不思議だな、どうしたんだろう? あんなことを猿若は云ったけれど、物なんか云
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