訪ね下さるとはいうけれど、生活《くらし》のことまでご相談は出来ない。ああどうしたらいいだろう?」
 民弥はこれからの生活について心を傷めているのであった。
 その民弥の苦しい心を、見抜いて現われて出たかのように、窓からヒョッコリ顔を出したのは、古道具買に身を※[#「にんべん+肖」、第4水準2−1−52]《やつ》した、香具師《やし》の親方|猪右衛門《ししえもん》であった。
 ジロジロ室《へや》の中を覗いたが、声を張り上げると云ったものである。
「家財道具やお払い物、高く買います高く買います」諂《へつら》うように笑ったが「これはこれはお嬢様、綺麗な人形がございますな。お売り下さい買いましょう。小判一枚に青差一本、それで買うことに致しましょう」ここでヒョッコリとお辞儀をしたが、その眼では卓の上の人形を、じっと睨んでいるのであった。

13[#「13」は縦中横]

 小判一枚に青差一本! これは実際|民弥《たみや》にとっては、大変もない誘惑であった。それだけの金が今あったら、相当永く生活《くらす》ことが出来る。そこで民弥は考えた。
「この人形を大事にしろ!」こうお父様は仰有ったけれど、どういう
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