の後の事であった。
と右近丸は云い出した。
「第三の壁という言葉の意味、どうやら解《わか》ったようでございますよ。物の方角を現わすに、東西南北という言葉があります。そこでこの室《へや》の真中に立ち、東西南北を調べてみましょう。そうして東西南北を、一二三四に宛て嵌めてみましょう」ここで右近丸は片手を上げ、一方の壁を指さした。「そっちが東にあたります。で、そっちにあるその壁を、第一の壁といたしましょう」右近丸はグルリと振り返えり、反対の壁を指さした。「そっちが西にあたります。で、そっちにあるその壁を、第二の壁といたしましょう」ここで右近丸は身を翻えし、書棚のある壁を指さした。「そっちが南にあたります。で、そっちにあるその壁を、第三の壁といたしましょう。即《すなわ》ち」と云うと右近丸は、民弥へ向かって笑いかけた。「書棚の置いてある南側の壁が、第三の壁でございます」
こう云われたので娘の民弥はなるほどとばかり頷いた。
「よいお考えでございますこと、大方《おおかた》その通りでございましょう。ではその壁の。……その書棚の……書棚の中の書物《ほん》のどこかに、唐寺の謎を解き明かせた、研究材料の有
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