悲しまれたり、訴えられたりするよりは、却って気持はよいのであった。「勿論心中では悲しみもし、又嘆いてもいるのだろうが、非常にしっかりした性質なので、努めて抑え付けているのだろう。そうして故意《わざ》と快活に、そうして故意と道化たように、振舞っているに相違ない。ではこっちもその意《つもり》で、それに調子を合わせて行こう」――これが右近丸の心持であった。
 で右近丸は云ったものである。
「いや全く弁才坊殿は、つまらない[#「つまらない」に傍点]お方でございましたよ。訳のわからない暗号のような、変な謎語を残しただけで、死んでしまったのでございますからな。……先ずそれはそれとして、せっかく残された二つの謎語、うっちゃって[#「うっちゃって」に傍点]置く事も出来ますまい。解いてみることにいたしましょう。ひょっとすると[#「ひょっとすると」に傍点]この謎語に、唐寺の謎を解き明かせた、研究材料の有場所が語られてあるかもしれません」
 で右近丸は考え込んだ。

12[#「12」は縦中横]

 考え込んでいた右近丸が、ヒョイと牀几《しょうぎ》から立ち上り、室《へや》の真中へ出て行ったのは、やや経ってから
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