る我等が祖先大和民族の、最古の様式の社なのである。
社に添って家がある。おおかた似たような様式である。やはり階段がついている。その正面に扉がある。出入口に相違ない。勾欄を巡らした廻廊が、家の周囲《まわり》を囲繞《とりま》いている。これは恐らく社務所なのだろう。
月がそれらを照らしている。で、一切の建物が、紗布《しゃぎぬ》に包まれているようである。社を中心に空地がある。その空地の一所に、女は坐っているのであった。
と、女は背後《うしろ》を向き、社務所へ向かって声をかけた。
「乳母《ばあや》々々、ちょっとおいで」
「はい御姫様」と云う声がした。社務所の中からしたのである。と、社務所の戸が開いて、一つの人影が現われた。廻廊を渡り階段を下り、月光の中へ現われたのを見れば、白髪を結んで肩へ垂らした、六十余りの老女であった。質素なみなり[#「みなり」に傍点]はしているが、上品で柔和で慈悲深そうな容貌、立派な素性を現わしている。
「宵も更けましてございます、もうお休みなさりませ」云い云い老女は近寄ったが「これはこれは唐姫《からひめ》様、またお占いでございますか」
並んで鏡を覗き込んだ。
「ね」と巫女は――唐姫は、またもや鏡に見入ったが、「ね、人影がしかも四人、私達の住居《すまい》の処女造庭境へ、あんなにも走って来るではないか。荒らさせてはならない、入らせてはならない、追い払わなければならないのだが、先に立って来る二人の男女、あれだけは是非とも捕らえることにしよう」
「まあまあ左様でございますか」こうは云ったが老女には、鏡に映っているという、人間の姿など解《わか》らないと見え、不安らしく白髪の首を振った。「お姫様には神通力、お鏡を通して浮世の相を、ご覧になることが出来ましょうが、この浮木《うきぎ》はほんの凡人、何にも見えませんでございます。ほんとにそんな人達が、走って来るのでございましょうか?」
「ああそうとも走って来るよ、一人は若武士、一人は娘、後の二人は香具師らしいよ。卑しい服装《みなり》をしているからね」
じっと鏡に見入ったが、尚も唐姫は云い続けた。
「それも普通の人達ではないよ、私達|一同《みんな》が以前《まえまえ》から手に入れようと望んでいた、唐寺の謎を解き明かした、研究材料を持っている、そういう好都合の人達なのだよ」尚も熱心に見入ったが、「もう北野も通り過ぎた
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