ているなあ」
「莫大な費用がかかっているらしい」
賊どもは互いに呟いている。
蒼白くひろがった月光の中に、尖塔を持ち円家根《まるやね》を持ち、矗々《すくすく》と聳えている南蛮寺の姿は、異国的であって神々しい。
夜が相当深いので、往来を通る人もなく、夜警にたずさわる検断所の武士も、他の方面でも巡っているのであろう。ここら辺りには見えなかった。
「噂によれば南蛮寺には、大変もない値打ちのあるものが、貯えられているということだが、どうぞして内《なか》へ忍び込み、そいつをこっちへ奪いたいものだ」
こう考えたは一党の頭、すなわち星影左門であったが、手下の者を見廻した。
「誰でもよいから囲《かこい》を乗り越し、内の様子を探って来い」
つまり命令を下したのである。
いつもは我武紗羅《がむしゃら》で命知らずで、どんな処へでも出かけて行く――そういう手下ではあったけれど、今度ばかりはどうしたものか、左門の云い付けを聞こうともしない。顔を見合わせて黙っている。
それには理由があるのである。
始めて眼にした南蛮寺、構造《つくり》がまるで異っている。うかうか内へ入った処で、内の様子を探ることが、覚束ないように思われる。それに第二に何と云っても、神々しい宗教的建物である。じっ[#「じっ」に傍点]と見ていると敬虔の念が、自然と心に湧くのである。
で、どうにも入り込みにくい。
で、一同黙っている。
「ふん」と云ったのは星影左門で、改めて手下を見廻したが、「行くものがないのか、臆病な奴等だ。よしよしそれなら頼まない。この俺が自分で出かけて行こう」
そこで鉄棒を小脇にかかえ、スルスルと門際へ歩み寄ったが、その星影左門さえ、結局寺内へは踏み入ることが出来ず、その上娘の民弥をさえ、捨ててしまわなければならないような、意外な事件にぶつかってしまった。
と云うのは突然門の内から、かつて一度も聞いたことのない、微妙な不思議な音楽の音色が、さも荘厳に湧き起こり、続いて正面の門が開き、そこから数本の松火を持った、数人の男が現われたが、それに守られた一人の老人が、「民弥よ民弥よ、恐れるには及ばぬ、悩《なやみ》ある者は救われるであろう、悲しめる者は慰められるであろう」
まずこう云ってから賊どもを見廻し、「ああ汝等も救われるであろう。改心をせよ、改心をせよ、一切悪事というものは、改心によって償
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