をしめている。小玉裏の裏帯を、幾重にも廻して腰に纏い、そこへ両刀を差している。
 つかみ乱した頭の髪、それを荒縄で巻いている。黒波《くろは》の脚絆で脛を鎧い、武者|草鞋《わらじ》をしっかりと穿いている。そうして或者は熊手を持ち、そうして或者は鉞《まさかり》を舁《かつ》ぎ、そうして或者は槌《かけや》をひっさげ、更に或者は槍を掻い込み、更に或者は斧をたずさえ、龕燈《がんどう》を持っている。
「あっ」と仰天した娘の民弥は、ベッタリ地上へ坐り込んでしまった。
 極度に胆を潰したのである。
 胆の潰れたのは当然といえよう、一難が去れば一難が来る。そうして新しい災難は、以前の災難よりより[#「より」に傍点]以上、恐ろしいものであるのだから。
 気丈の民弥も顫え上り、茫然として見守った。
 が、それにしてもこの連中は、どういう身分の者だろう?
 浮木の姥が走って来て、その連中とぶつかった[#「ぶつかった」に傍点]時、大体身分の見当が付いた。
「おっ、汝《おのれ》らは茨組《いばらぐみ》か!」こう云ったのは浮木である。
「珍らしいの、浮木の姥か」
 こう云って進み出た壮漢は、この一党の頭と見え、荒々しい顎鬚を顎に貯《たくわ》え、手に鉄棒をひっさげている。年の頃は四十五六、腹巻で胴を鎧っている。星影左門《ほしかげさもん》という人物である。
「唐姫《からひめ》殿はご無事かの?」嘲笑うように訊き返した。
「うむ」と云ったが浮木の姥は、かなり周章《あわて》た様子であった。「いつ其方《そち》達は上洛したぞ?」
「ご覧の通りさ、たった今さ」
「で、何のために上洛したな?」
「京師《みやこ》を掠めようその為さ」
「が、そいつはよくあるまい」浮木はその眼をひそめたが、
「あの信長めが京師を管理し、威令行なわれているからの」
「そんなことには驚かないよ」星影左門は笑ったが「何の検断所の役人どもに、指一本でもささせるものか」
「が、それにして何のために、五六十人ばかりの同勢で、いまごろ上洛して来たな?」
「唐姫殿が欲しいからよ」
「ふふん」と浮木は嘲笑った。「お前のような人間は、唐姫様にはお気に召さぬそうな」
「それは昔から解《わか》って居るよ」星影左門も負けてはいない。
「が、腕ずくでも手に入れて見せる」
 浮木の姥はまた笑ったが、「我等の勢力を知らぬと見える」
 すると左門も笑ったが、「そういうこと
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