う輩《やから》であった。
 一個《ひとつ》の手ごろの四角い石と、十個の小さい円石とで、一人の乞食が変なことをしていた。
 やや離れた欄干に倚り、それを見ている老武士があった。編笠で顔を隠しているので何者であるかは解らなかった。
 乞食は角石を右手へ置いた。それから小石を三個だけ、その左手へタラタラと並べた。
 老武士が口の中で呟いた。
「銅銭会茶椀陣、その変格の石礫陣《せきれきじん》。……うむ、今のは争闘陣だ」
 乞食はバラバラと石を崩した。角石をまたも右手へ置き、その左手へ二つの小石を、少し斜めにピッタリと据えた。それから指で二の字を描いた。
 と、老武士は口の中でいった。「雙龍《そうりゅう》玉を争うの陣だ」
 すると塊《かた》まっていた数人の乞食の、その一人が手を延ばし、ツ[#「ツ」に傍点]と一つの小石を取った。それを唇へ持って行った。それから以前《もと》の場所へ置いた。他の乞食が同じことをした。次々に小石を取り上げた。それを唇へ持って行った。それから以前《まえ》の場所へ置いた。「茶を喫するという意味なのだ」老武士は口の中で呟いた。「雙龍玉を争うにより、その争闘に加わるよう。よろし
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