大した悪事もやらねえが、コソコソ泥棒、掻っ払い、誘拐《かどわか》しぐらいはやろうってものさ、さてそこでお前さんだが、品川から駕籠に乗んなすった時おりから深夜《よふけ》、女身一人、出歩こうとは大胆だが情夫《おとこ》にあいたいの一心から、家を抜け出して来たんだな、こう目星を付けたってものさ。で、先棒がいう事には、何も男の所まで、担いで行くにゃああたるめえ、大の男が二人まで、ここに揃っているのだからな。なるほど縹緻《きりょう》は悪かろう、肌だって荒いに違《ちげ》えねえ。いうまでもなく情夫《おとこ》の方が、やんわり[#「やんわり」に傍点]と当るに違えねえ。だがそいつあ勘弁して貰い、厭でもあろうが俺《おい》ら二人を、亭主に持ってはくれまいか、ちょっくら[#「ちょっくら」に傍点]相談ぶって[#「ぶって」に傍点]見ようてな。もっとも厭だといったところでおいそれ[#「おいそれ」に傍点]と、聞く俺らじゃあねえ。よくねえ奴らに魅入られたと、こう思って器用に往生しねえ」
「おおおお六やどうしたものだ。そう強面《こわもて》に嚇《おど》すものじゃねえ。相手は娘だジワジワとやんな」先棒の源太はかがん[#「かがん」
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