次郎吉も手を出すそうで」
「ははあ左様でござるかな」
細川の藩士眼を見合わせた。
「噂によれば二本榎、細川侯のお下邸では、毎日毎夜賭場が立つそうで、ははあさては次郎吉も、その方面でお出入りかな」
「うへえ。……いやいや。……左様なこと。……」
「何のないことがござるものか」
軍十郎ニタリと笑い、
「次郎吉は金使いの綺麗な男、失礼ながらご貴殿方も、時々小使金ぐらいお貰いでござろう」
「いやはや、どうして、なかなかもって……」
「アッハハハ」と軍十郎、臆面もなく笑ったが、
「賭場など立てばお邸内自然不用心にもなる道理、賊に入られてもしかたござらぬの」
「これはどうも飛んだお目違い」
「近来不思議な賊あって、大名邸へ忍び入りお手許金を奪う由、拙者そのため上の命にて夜中見廻り致し居る次第、世間随分物騒でござれば、諸事ご注意願いたいものじゃ」
「心得てござる。注意致すでござろう」
「最早お引き取り相成るよう」
「左様でござるかな。……しからばご免」
さんざん油を取られたあげく、細川の藩士はコソコソと邸の方へ引っ返して行った。
後を見送った軍十郎、苦笑せざるを得なかった。
鶯谷の狼藉
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