消息の解《わか》るはずがねえ。……何しろ俺らも驚いたね、いつものデンで忍び込んだ所が場所もあろうに姫君のお寝間、ひょいと覗くと屏風越しに寝乱れ姿が見えたと思え。寝白粉というやつさね。クッキリと白い頸からかけて半分お乳が見えるまで寝巻から抜いだ玉のような肌。まずブルッと身顫いしたね。丹花《たんか》の唇っていう奴をほん[#「ほん」に傍点]の僅かほころばせてよ、チラリと見せた上下の前歯、寝息さえ香ろうというものさ。で、思わず茫然としていつまでも屏風越しに覗いているとポッカリと眼をお開きなされたがにわかに夜具を刎ね上げたのでハテなと思うと声を掛けられた。
「曲者!」という凜とした声。
「掛けると同時にヒラリと起き長押《なげし》の薙刀をお取りになったがいやどうも[#「いやどうも」に傍点]その素早いことは、武芸の嗜みも想われて急にこっちは恐くなり何にも取らずにバタバタと逃げ、かくの通りに松の木の上で、ブルブル顫えておいでなさらア。……と云って恐ろしくて顫えるのじゃねえ。縁に立ったお姫様の薙刀姿が艶かだからよ。……ああ本当に悪くねえなあ。一度でもいいからあんな女を。……おや、畜生、宿直の武士ども漸時
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