《だんだん》こっちへ遣《や》って来やがる。あ、いけねえ見付けやがった!」
「方々曲者を見付けてござる! 松の上に居ります松の上に居ります!」
「えい!」と突き出す大身の槍、それを外して鼠小僧、パッと家根《やね》へ飛び移った。
「それ家根だ!」
「逃がすな逃がすな!」
 五六人家根へ追い上って来る。
 賊はと見ればその賊は、家根棟の上にふん[#「ふん」に傍点]跨がり、大胆不敵にもニヤニヤとこっちを眺めて笑っているらしい。
 ツツ――と一人が走り寄り、「捕った!」とばかり組み付くのを、
「侍、命が惜しくないそうな」
 云うと同時に組まれたまま故意《わざ》と足を踏み辷らし、坂を転がる米俵か、コロコロコロコロと家根に添い、真逆様に落ちたのは、乃信《のぶ》姫君の佇んで居られる高縁先のお庭前で、落ちるより早く身を飜えし、組まれた相手を振り解《ほど》くとひょい[#「ひょい」に傍点]とばかりに突っ立った。
「へへ、これはこれはお姫様、とんだ失礼を致しまして真っ平ご免遊ばしませ。なアんて云うのも烏滸《おこ》がましいが私《わっち》は泥棒の鼠小僧、お初お目見得に粗末ながら面をお目にかけやしょう」
 パッと包
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