る、二人はピッタリ肩を寄せ、部屋の内へ入って行く。
 とたんにパチッと鍔音がした。
 ハッと驚いた若侍、思わず一足下った時、
「イヤーッ」と鋭い小野派流の気合。
「む」と若侍は呼吸詰まり、ヨロヨロと廊下へ蹣跚《よろめ》き出た。
「えいッ」と再び掛声あって、隣室の障子を婆裟《ばさ》と貫き閃めき飛んで来た一本の小束! 若侍は束で受けたが切先逸れて肘へ立った。
「あっ」と云う声を後に残し、若侍は雨戸を蹴放し、闇のお庭へ飛び出して行った。

 この夜、与力の軍十郎は、同心二人を従えて二本榎の武家通りを人知れず静かに見廻っていた。
 と、行手から風のように一人の男が走って来た。怪しい奴と眼星を付け、
「待て!」と軍十郎は声を掛けた。
 しかし怪しいその男は見返りもせず走り過ぎる。
「それ方々《かたがた》! 引《ひ》っ捕《とら》えなされ!」
「はっ」と云うと二人の同心、すぐに後を追っかけたが、その男の足の速さ、ものの一丁とは追わないうちにとうとう姿を見失ってしまった。
「はてな?」と軍十郎は呟いた。
「あの姿には見覚えがある」

箱根へ行け! 箱根へ行け!
 その翌日の朝であったが、与力中條軍十郎
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