い姫君を、お寝間で占めるとは羨ましい次第」
「狐狸の身分になりたいものじゃ」
「おお新十郎参ったか」
肥後熊本で五十四万石の大名中での大々名、細川越中守はこう云って、小野派一刀流指南役、左分利新十郎をジロリ[#「ジロリ」は底本では「ヂロリ」]と見た。
「は」と云ったが新十郎、下げていた頭をまた下げる。
「其方《そち》の剣道、霊験あるかな?」
藪から棒にこう云っておいて、越中守は眼を閉じた。何やら思案に余っていたらしい。
「は、霊験と仰せられますと?」
新十郎は恐る恐る訊く。
「昔、源三位頼政は、いわゆる引目の法をもって紫宸殿の妖怪を追ったというが、其方の得意の一刀流をもって妖怪を追うこと出来ようかな?」
「は、そのことでござりますか。不肖なれども新十郎、剣をもって高禄をいただき居る身、いかなる妖怪か存じませぬが適《かな》わぬまでも剣の威をもって取り挫ぎます[#「挫ぎます」はママ]でござりましょう。
「おおよく申したそうなくてはならぬ」
「して妖怪と申されますは?」
「いずれは狐狸の類であろう」
「は、左様でござりますか」
「乃信姫の身に憑いたそうじゃ」
「姫君様のお身の上に……」
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