けようとした。
「いけねえ! 馬鹿! 来ちゃいけねえ!」
突然《いきなり》内から呶鳴る声がしたが、もうその時は開けていた。
「まあどうしたのさ。呶鳴ったりして」
見ると次郎吉は端然と蒲団の上へ坐っている。別に変わったこともない。ただ二つの薬瓶が膝の上に置いてある。そうして周章《あわて》てその瓶をパッと両手で隠したものである。
「えい、あっちへ行っていろい!」
云いながら次郎吉は睨んだが、その眼光の凄いことは、お松をして思わず身顫えさせた。
お松には何となくその薬瓶が怪しいものに思われた。
こういうことがあってから半月ほどの日が経った。
その時またも次郎吉は、いつまで経っても起きて来なかった。
「どうして内の人はああ時々夜遅く帰って来るのだろう?」
昼が来ても起きて来ない。
で、お松は離れ座敷へ飛石伝いで行って見た。そうして雨戸を窃《そ》っと[#「窃《そ》っと」は底本では「窃《そっ》っと」]開けた。それから障子を窃っと開けた。
ヒョイと覗くと次郎吉は端然と床の上に坐っていたがグッと振り返ったその顔付!
「あっ!」と云うと後ピッシャリ、気丈なお松ではあったけれど、バタバタ
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