扇でピシッと打ちひしぐ。
「わ――ッ、いけねえ! 邪魔が出たア!」
最初の勢いはどこへやら、五人揃って無頼漢共は雲を霞と逃げてしまった。
武士は静かに編笠を脱ぎ、
「浮雲《あぶな》い所でござりましたな。お怪我がなくて先ずは重畳、確か貴女様は細川の……」
「はい、乃信姫でござります。ようお助け下されました。あのう……」と云ったが急に口籠り、まぶし[#「まぶし」に傍点]そうに侍の顔を見た。水の垂れるような美男である。侍と云うよりも歌舞伎役者、野郎帽子の若紫がさも似合いそうな風情である。それまで蒼かった姫の顔へポーッと血の気が差したものである。
その夜、浅草の料亭で、例の五人の無頼漢が、ひそひそ話しながら酒を飲んでいた。
そこへ女中に案内され、入って来たのは例の武士である。
「今日はご苦労」と云いながら金の包をヒョイと出した。
「一人前十両ずつ。へへえ、有難う存じます。仕事も随分あぶなかったが、褒美の金も値がいいや」
「それではそれで堪能か、こっちも安心」と云いながら、グイと取った深編笠、顔を見ればこれはどうだ! 水の垂れそうな美男ではなく、二眼と見られない醜男ではないか!
解け
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