ッと出た。
「中斎先生に退治られた、京都の妖巫|貢《みつぎ》の姥《うば》、その高足のお久美という女、網の目を逃がれて行方が不明《しれな》い。その後も中斎先生には、心にかけられ居られたが、江戸にいようとは思わなかったぞ。見現わしたからにはようしゃはしない。先生に代わってこの矩之丞、破邪の剣を加えてやる。……一度にかかれ! 屯ろしてかかれ! 先ず汝《おのれ》から! 来い市郎右衛門!」
 技倆は十分、覇気は満腹、しかも怒りを加えている。
 飛び込みざまに横へ薙ぎ、市郎右衛門の胴を割り付けた。
 飛び返ると背後《うしろ》に土塀がある。それへ背中を食っ付けたが、
「一人退治た、次は誰だ! お久美お久美、今度は其方《そち》だ!」
 飛び込もうとするのを見て取るや、五六人信徒が中をへだてた。
「それでも感心、教主を守るか。充分に守れ、充分に切る。ソレ!」と飛び込むと一揮した。
「次はどいつだ。誰でもよい、行くぞ!」と叫ぶとまた一躍し、つれて悲鳴! 倒れる音がした。
 邪教徒たちがバタバタと逃げ出した。


26[#「26」は縦中横]

 それを追っかけた宇津木矩之丞は、信徒に囲まれ龕を捧げ、逃げて行
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