また走らなければならなかった。
 出た所が富島町で、それを突っ切ると亀島橋、それを渡れば日本橋の区域、霊岸島から出ることが出来る。
「よし」と云うと岡引の松吉は、亀島橋をトッ走った。
 中与力《なかよりき》町が眼の前にあって、組屋敷が厳しく並んでいる。
「しめたしめた」とそっちへ走った。
 組屋敷の一画へ出られたら、松吉は安全に保護されるだろう。
 だが運悪く出られなかった。ぶちこわし[#「ぶちこわし」に傍点]の一団が大濤のように、その方角から蜒って来て、すぐに松吉を溺らせて、東北へ東北へと走ったからである。
 掻き分けて出ようと焦ったが、人の渦から出られそうもない。
 で、東北へ東北へと走る。
 日本橋の区域も霊岸島と負けずに、修羅の巷を現わしていた。


24[#「24」は縦中横]

 しかしさすがに蔵前へ迄は、ぶちこわし[#「ぶちこわし」に傍点]の手が届かないと見え、寧ろひっそりと寂れていた。
 と云うのはぶちこわし[#「ぶちこわし」に傍点]の噂を聞き込み、ここらに住んでいる大商人達が、店々の戸を厳重にとざし、静まり返っているからである。
 ふと現われた人影がある。
「とう
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