い。よし来た、一番、つけて[#「つけて」に傍点]やろう」
追っかけようとしたが駄目であった。その時一群の人間が、彼の方へ走って来たからである。
「不可《いけ》ない! しまった! あいつらだ! 多勢に一人、とっ[#「とっ」に傍点]捉まる!」
サーッと一散に走り出した。露地が左右に別れている。
「よし、こっちだ!」と曲がったは左で、そこでグルリと振り返って見た。町人風ではあったけれど、ただの町人とは思われない、そういう人数が一二三人、執念《しつこ》く後を追っかけて来る。
「俺には解《わか》る! あの一味だ! ……偉いことになったぞ、偉いことになったぞ! ……こんな大物になろうとは、夢にも俺は思わなかった!」
――露地が丁字形になっていた。左へ曲がるとトッ走った。と、小広い往来へ出た。
「不可《いけ》ない不可ない、往来は不可ない! 人に見られたらみっとも[#「みっとも」に傍点]ない!」
――またもや露地へ駈け込んだ。追って来る一団も駈け込んだらしい、足音が乱れて聞こえてくる。案内には詳しい岡引である。露地から露地と縫って走る。だが執念深い追手であった。どこ迄もどこ迄も追っかけて来る。
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