ことが出来そうである。つまりそんなにも建物と建物の周囲《まわり》は陰気なのであった。
周囲の繁った木立によって、一切外界と交渉を断ち、一劃をなした別世界に、一種威嚇的な空気を纏い、物云わず立っている気味の悪い存在! それが離れ座敷の姿であった。
だからその前に立った人は、そういう空気に圧迫され、逃げ出してしまうに相違ない。
にも拘らず松吉は、怖くはないよと云いたそうに、胸の辺りで腕を組み、大工が普請でも見るように、家の周囲を廻りながら、仰向いて見たり俯向いて見たり、一向暢気そうに眺め出した。
「今朝方|箒目《ほうきめ》をあてたと見え、地面も縁の上も平《なら》されている」
口の中での呟きである。
「おや木の枝が折れてるぜ」
たしかに一所木の枝が、無理に乱暴に折り取られている。
「腰でもかけて休もうかい」
――縁へ腰をかけた丁寧松は、後脳を雨戸へ押し付けて、ぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]空を眺めたが、どうやら本当はぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]と、空を眺めているのではなく、何かを聞き澄ましているのらしい。
「いい天気だなあ、鳥が啼いていらあ」
梢で雀が啼いている。
「宇和
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