たという加賀屋さんの手代、何か持ってはいませんでしたかえ?」
「へい」とお清は考え込んだが、
「何にもお持ちではございませんでした」
「ふうん」と云ったが首を傾げた。
「痩せていましたかえ、肥えていましたかえ? 何さ、着ふくれ[#「ふくれ」に傍点]ちゃアいませんでしたかね?」
「へえ」と又もや考えたが、
「気がつきませんでございました」
だがもう一度考えると、
「そう仰有《おっしゃ》ればそんな[#「そんな」に傍点]ようで、着ふくれ[#「ふくれ」に傍点]ていたようでございますよ」
「廊下には行燈でもありましたかね? 玄関には無論あったでしょうね?」
「それがホッホッと消えましたので」
意外のことを云い出した。
「うむ」と云ったが丁寧松は、チラリと明るい眼付をした。何か暗示を得たようである。
「どっちが先立って行きましたね?」
「お客様がお先へ参りました」
「こう何となく反り返って、お辞儀なんかはしなかったでしょうね?」
こう云ったが笑い出した。
「こいつァ無理だ、訊く方が無理だ、寝ずの番だって人間だ、夜っぴて起きていた日にゃア、明け方には眠くなるからねえ、そんな細かい変梃なことに、
前へ
次へ
全109ページ中59ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング