いませんか、どんな恰好でございましたかね?」
「へい?」と云ったものの番頭は、何の意味だが解らないらしい。
「何さ、昨夜《ゆうべ》の泊り客のことで。詳しく話していただきましょう」
「あ、その事でございますか。はいはいお話し致しますとも」
そこで番頭は話し出した。
「ずっと夜更けでございましたが、門を叩くものがございましたので、開けて見ますと加賀屋の提燈、手代風のお方が五六人、ゾロゾロ入って参りましたが、『大切のお客様でございますから、丁寧にあずかって下さるように』と、かように申してお連れして来ましたが、二十五六のお武家様で、宇和島様だったのでございますよ。本来なればそんな[#「そんな」に傍点]夜更け、お断りするのでございますが、名に負う加賀屋様の御紹介ではあり、立派なお武家様でございましたので、早速この座敷へお通し申し……」
「今朝まで安心していなすったので?」
「へいへい左様でございます」
「ええと、所で云う迄もなく、その加賀屋の手代衆は、お引き取りなすったでございましょうね?」
意味ありそうな質問である。
「はい……いいえ……お一人だけは……」
「え?」と松吉は訊き咎めた。
「
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