や丁寧になった。
「立派な造作でございますねえ」
 云いながら四辺《あたり》を見廻したが、立派な造作を見たのではなく、間取りの具合を見たのらしい。
 真中《まんなか》に廊下が通っていて、左右に座敷が並んでいる。
 その一画を通り過ぎると、広大な裏庭になっていて、離れ座敷に相違ない、三間造りの建物があり、母家と渡り縁で繋がれていた。
 その建物の中の部屋の、襖の前まで来た時である。
「このお座敷なのでございますよ」
 こう云って番頭は辞儀をしてみせた。


14[#「14」は縦中横]

「なるほど」と云ったが丁寧松は、開けてみようともしなかった。
「結構なお庭でございますなあ」
 こんなことを云い出してしまったのである。
 築山、泉水、石橋、燈籠、一流の旅籠の庭だけあって、非の打ちどころのないまでに、まさに結構な庭ではあったが、築山の横に木立に囲まれ、古々しい一棟の離れ座敷の、家根《やね》の瓦の見えるのが、全体の風致を害していて、欠点といえば欠点とも云えた。
「腰かけてお話しいたしましょう」
 縁からダラリと足を下げ、縁へ腰かけた丁寧松は、さも悠暢に云い出した。
「お話を聞こうじゃアござ
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