無いぞないぞ、汝《うぬ》の命は! 痛えどころか殺すぞよ!」
グッと睨んだが考えた。
「待てよと……オ、茨木! 茨木!」
「は」と云いながら進み出たのは、いましがた鞘ぐるみ[#「ぐるみ」に傍点]刀を出し、源三郎をからかった[#「からかった」に傍点]、浪人風の男であった。
「たしかこいつは。……この若造は……加賀屋源右衛門の倅《せがれ》だったの?」
「は、さようでございます」
「よし」と云うと有意味に笑った。
「飛び込んで来た、よい囮が! 今まで迂濶《うっか》りしていたよ。……何よりの玉だ、こいつを利用し……」
呟くと一緒に突き飛ばした。
突かれて蹣跚《よろめ》いた源三郎は、ドンと壁へぶつかったが、充分の恐怖《おそれ》、充分の怒り、しかし依然として心は夢中で……
「汝は、汝は!」と匕首《あいくち》を揮った。
「ホッ、ホッ」という例の笑いと共に、入身となった鮫島大学は、グッと拳を突き出した。
「ムーッ」とこれは源三郎で、泳ぐような手付きをしたかと思うと、グニャグニャになってぶっ[#「ぶっ」に傍点]仆れた。
「悪い格好で寝ているよ。大金持の若旦那も、からきし[#「からきし」に傍点]こうな
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