、菫《すみれ》色の光を落としているので、この部屋は朦朧と、何となく他界的に煙っている。
 それにしてもこんな天保時代に、こんな支那風の不思議な部屋が、中央ではないにしても江戸の中に、出来ているとは何ということだろう? いずれこれの経営者は、鮫島大学に相違あるまいが、ではその鮫島大学なる武士は、どんな素性の者なのだろう? 支那と関係のある人間だろうか?




 また源三郎は怒鳴り出した。
「鏡仕掛けとは何事だ! 鏡に持札を写されてみろ、相手に持札がみんな知れ、どんな旨《うま》い手を使ったところで、裏ばかり掻かれて勝負にならねえ! おおおお、おおおお手前達、グルだなグルだな、みんなグルだな! みんなグルになって俺一人にかかり、大金を捲き上げようとしたんだろう!」
 又、匕首を揮うのであるが、腰をかけたり佇んだり鼻歌をうたったり囁いたり、笑ったりしている悪漢《わる》どもは、
「何を坊ちゃんが云いおるやら、うっちゃって[#「うっちゃって」に傍点]置け、うっちゃって[#「うっちゃって」に傍点]置け」
 こう云ったように冷淡に、取り合おうとさえしないのであった。
 こういう空気は当然に、人をし
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