《まげ》だけは刷毛先《はけさき》を散らし、豪勢|侠《いなせ》に作ってはいるが、それがちっとも似合わない。着ている物も立派であって、腰につけている煙草入の、根締の珊瑚は古渡りらしく、これ一つだけで数十金はしよう。秘蔵がられている豪商の息子が、悪友のために惑わされ、いい気になって不頼漢を気取り、悪所通いをしているという、一見そういう風態であった。
 で、匕首《あいくち》は振り上げたが、敵を切る前に自分の手を、切りそうで切りそうで見ていられない。――と云ったようなあぶなさ[#「あぶなさ」に傍点]がある。
 加賀家百万石の御用商人、加賀屋と云って大金持、その主人を源右衛門と云ったが、その息子の源三郎なのであった。
「キ、切るゾ――ッ! キ、切るゾ――ッ!」
 源三郎は匕首を振り廻すのであったが、しかし誰一人相手にしない。ニヤニヤみんな笑っている。
 源三郎を取り巻いて、十五六人の男がいたが、この連中が大変物で、浪人風の者、ゴロン棒風の者、商人風の者、鳶風の者、そうかと思うと僧形の者、そうかと思うと大名方の、お留守居風の人物もいるのであった。
 しかしいずれも変装らしく、どうやらみんな[#「みん
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