ミは狂わなかったよ。不頼漢《ならずもの》の頭、賭博宿の主人、どうやらそんな塩梅《あんばい》らしい。……何だか気味が悪いねえ、どれソロソロ帰るとしよう」
 ひょいと立ち上ったが考えた。
「何も好奇《ものずき》、屋敷の様子を、こっそり探ってみてやろう。うまく賭博場でも目つかったら、とんだ面白いことになる」
 それで、ソロリと襖を開けた。




 一つの部屋で、一人の若者が、匕首《あいくち》などを振り廻し、大声で喚きちらしていた。
「なんだなんだ飛んでもねえ奴等だ! うまうま俺を瞞《だま》しゃアがった。これで解《わか》った、これで解った! 幾度勝負を争っても、一度も勝ったためしがねえ、おかしいおかしいと思ったが、こんな仕掛けのある以上、負けつづけるのは当然《あたりめえ》だ! ……飛んでもねえ奴等だ、承知出来ねえ! ……さあ叩っ斬るぞ叩っ斬るぞ!」
 年の頃は二十一二、非常に上品な若者である。否々《いやいや》むしろ坊ちゃんなのである。色が白く血色がよい。栄養の行き渡っている証拠である。丸味を帯びた細い眉、切長で涼しくて軟らか味のある眼、少し間延びをしているほど、長くて細くて高い鼻、ただし鬘
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