それからまたも懐手をしたが、薄っペラの調子で喋舌《しゃべ》り出した。
「ざっとこんな[#「こんな」に傍点]恰好で。つまり貴殿不承知なら、秘密の小口を明かせた手前、生かしては置かぬ! 叩っ切る! と云うことになりますので。……と云うとおっかない[#「おっかない」に傍点]話になるが、何のこんなにも旨い話、貴殿諾かずにおられましょうか。承知と云われるは知れたことで。……だが日当不足となら、清水の舞台から飛んだつもりで、一日十両まで糶《せ》り上げましょう。これでは御不満ありますまいな。手を拍ちましょう、シャンシャンシャン! いかがなもので? シャンシャンシャン!」
呑んでかかった態度である。
5
こいつを聞くと若侍は、にわかに愉快になったらしい。
「一風変わった悪党だわえ。よしよし面白い面白い、ひとつこいつの手に従《つ》いて、殺人《ひとごろし》請負業を開店《ひら》いてやろう。天変地妖相続き、人心恟々天下騒然、食える野郎と食えぬ野郎と、変にひらき[#「ひらき」に傍点]があり過ぎる。こんな浮世ってあるものか。殺人だって必要さ」
そこで若侍はズバリと云った。
「きっと十両出されるかな?」
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