び音だ。
グルッと振り返った若侍は、
「拙者のことで?」と隙かして見た。
黒頭巾で顔を包んでい、黒の衣装を纏っている。いわゆる黒鴨|出立《いでた》ちであった。体のこなし[#「こなし」に傍点]、声の調子、どうでも年は三十七八、そういう武士が立っていた。
大小をピンと胸高に差し、率爾ながらと呼びかけた癖に、何と無礼! 懐手《ふところで》をしている。ひどく横柄なところがあり、見下だしたような所がある。
胸を悪くした若侍は、
「今夜はよくよく変な晩だ、いろいろの芸人が登場するよ」
こう思ったのでぶっきら[#「ぶっきら」に傍点]棒に、
「御用かの! この拙者に?」
すると向こうの武士が云った。
「感嘆してござるよ、立派な腕前」
「大変な黒鴨が出やアがった。俺を褒めるとは度胸がいいや。褒めるからには褒めっ放しでもあるまい。いずれ可《い》い物でもくれるのだろう」
可笑《おか》しくなったので若侍は、
「お弱《よお》うござんしたからな、先方が」
「なかなかもって」と黒鴨の武士は、
「彼等も相当の手利きでござる」
「ははあ」と云ったが感付いた。
「さては貴殿のお仲間だの」
「さよう」とわるく
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