ている中、宇津木矩之丞と出会ったまでである。
 大学は江戸へ帰ったが、矩之丞が大阪から上陸した晩に、手下の者へ云いふくめ、加賀屋からの迎えだと偽わって、旅籠屋の柏屋へ送り込み、手下の一人を同宿させて、機を見て貴重品を盗ませようとしたのを、矩之丞が早くも感付いて、あべこべに手下に当身をくれ、衣裳を奪って自分が着て、旅籠屋の柏屋を抜け出したのである。
 裸体《はだか》に剥いた大学の手下を、開けずの間の中へ放り込んだのには、次のような事情があったのである。
 何となく宇津木矩之丞には、開けずの間の建物が気になったので、そこで深夜に行ってみると、その後から例の大学の手下が、コッソリ尾行《つけ》て来たのである。
 そこで、気絶させて裸体に剥き、開けずの間の中へ抛り込んだまでで、その時開けずの間が邪宗の道場で、十字架、祭壇というような、いろいろの物のあるのを知り、一驚したということである。

 宇津木矩之丞のその後については、いろいろの説が行なわれている。
 大塩中斎《おおしおちゅうさい》に諌言をし、一揆(天満《てんま》から兵を挙げ、大阪の大半を焼き打ちにかけ、悪富豪や城代を征め、飢民を救済しよう
前へ 次へ
全109ページ中107ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング