7[#「27」は縦中横]

 自分の家の金蔵の中に、どうして源右衛門と源三郎とが、血だらけになっていたのだろう? 鮫島大学の姦策からであった。一味の悪漢東三をして、加賀屋の蔵番に住み込ませたのは、かなり以前からのことであり、大金を盗ませようとしたのである。
 で昨夜手下の松本という男を、町役人に仕立て上げ源右衛門へこんなことを云わせたのである。
「源三郎殿には悪所通いをはじめ、おびただしいまでに金を使われる。恐らく御身代へも穴をあけたであろう。充分御注意なさるがよい」と。……
 そこで源右衛門が驚いて、金蔵へ行って調べたが、そこを背後《うしろ》から東三が斬り付け、負傷失心して倒れたところへ、大学方から送って来た、――金八という男が運んで来て、木戸をこじ[#「こじ」に傍点]開けて舁《かつ》ぎ入れた、これも失心した源三郎を押し込め、そうしてその手へ血刀を握らせ、それから大金を奪い取り、大学方へ渡したのである。
 源右衛門の行方が知れないと知ったら、加賀屋では官へ届けるであろう。すぐに役人がやって来て、金蔵なども調べるであろう。そこでそういう光景を見ると、官ではきっと思うであろう。――源三郎が金に詰まり、従来も金を盗んでいたが、この夜も金を盗もうとして、金蔵の中へ入り込んだところを、父の源右衛門に発見され、そこで兇行を演じたのであろうと。
 ………しかし加賀屋で大事を取り、官へ届けるのを控えている中に、松吉のために発見され、その企ては失敗に終った。
 そうして慧眼な松吉によって、かえって東三が疑われ、厳重に尋問された結果、一切のことが暴露された。
 幸い源右衛門の負傷は軽く、間もなく恢復したそうであり、平野屋から委託された貴重な品を宇津木矩之丞から受け取ることも出来た。
 貴重の品物とは何物だろう? 平野屋から加賀屋の手を通し、加賀宰相家へ売り込むべき品で、小さな物ではあったけれど、非常に値打ちのある物であり、金に換えたら萬金にもなろうか。
 そこで中斎が奪い取り、救民の資にあてようとしたのを、宇津木矩之丞が賊名を恐れ、変名をして浪人者となり、平野屋の寮の門前で、鮫島大学と斬り合って、その武勇を現わして、平野屋の老主人に認められ、その貴重品を托せられたのである。
 一方鮫島大学は、そういう悪党であったため、貴重品のことを耳にするや、奪い取ろうと大阪へ下り、平野屋の寮を窺っ
前へ 次へ
全55ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング