減年をしているのに、男か女かこの俺の見分けが付かねえとは甘え奴さ……秋篠というお局が満千姫様のご生母でそこのお部屋に何から何までお輿入れ道具が置いてあるそうな。信輔筆の六歌仙、在原業平《ありわらのなりひら》もそこにある筈だ……五つ六つこれで七つ。よし、この廊下を曲がるんだな」
 七つ目の廊下を左へ曲がり、尚先へ走って行った。と、最初《とっつき》の廊下へ出た。それを今度は右へ曲がるとはたして立派な部屋がある。
「むう、これだな、どれ様子を」
 板戸へピッタリ食い付いて一寸ばかり戸をあけたが朱塗りの蘭燈《らんとう》仄かに点り夢のように美しい部屋の中に一人の若い腰元が半分《なかば》うとうと睡りながら種彦らしい草双紙を片手に持って読んでいた。
「よし」と呟くとスーと開け部屋の中へ入り込んだ。
 ハッと気が付いて振り返ると、
「どなた?」腰元は声を掛けた。
「はい妾《わたし》でございます」
 小次郎はスルスルと近寄ったがパッと飛びかかって首を掴み、持って来た手拭いで猿轡《さるぐつわ》。扱帯《しごき》を解いて腕をくくり傍《そば》の柱へ繋《つな》いだが、奥の襖を手早く開けた。
 グルリと見廻したがツ
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