抱き込まれてもいいじゃないか」――悧巧者の三津五郎は、早くもここへ気が付いた。
三津太郎の噂
「ナーニ私は諾《うん》と云います。がどうでしょう幸四郎《ごだいめ》が?」
「なあにあなたさえ諾《うん》と云ったらそこは日頃の仁徳です、誰が何んと云いますものか」
「さあそれならこれは決まった。ところで後の出し物は?」
「それは皆《みんな》と相談して」
「いやいやこれも大体のところはここであらまし[#「あらまし」に傍点]決めた方が話が早いというものだ」
「なるほど、それももっともだ。……心当たりがありますかえ」
「幸四郎《ごだいめ》の機嫌を取らないとね」三津五郎はちょっと考えたが、
「仁木《につき》を振って千代萩か」
「御殿物が二つ続く」
「どうもこいつアむずかしい」
「ではどうでしょう『関の戸』は?」
「ははあそこへ行きましたかな」
「幸四郎《ごだいめ》の関兵衛、立派ですぜ」
「そうしてあなたの墨染《すみぞめ》でね」
「私はどうでもよろしいので」
「いやいや是非ともそうなくてはならない。よろしい決めましょう『関の戸』とね」
「これで二つ決まりました」
「ついでに三つ目を……さあ何
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