のが恐ろしい悪魔の住家にも思われ、また陰険な謀叛人の集会所《あつまりじょ》のようにも思われるのであった。
「そうだ時々監視しよう」
下城の途次はいうまでもなく非番の日などには遠い本所からわざわざ写山楼まで出かけて行きそれとなく様子を探ることにした。
それはあの晩から十日ほど経ったある雪降りの午後であったが、例によって下城の途次、写山楼まで行って見た。
グーングーングーングーン! 何んともいえない奇怪な音が裏庭の方から聞こえて来た。
その音こそ忘れもしない多摩川の空で垂天の大鵬《おおとり》が夕陽を浴びながら啼いたところのその啼き声と同じではないか。
紋太郎は思わず「あっ」といった。それから「しめたッ」と叫んだものである。
彼はじっと考え込んだ。
「ううむやっぱりそうだったのか! 俺の睨みは外れなかったと見える……もうあの音の聞こえるからは化鳥の在所《ありか》はいわずと知れたこの写山楼に相違ない」
彼の勇気は百倍したが、しかしこのまま写山楼へ踏み込むことも出来なかったのでグルグル塀外を歩き廻り尚その音を確かめようとした。
しかし音は瞬間に起こりしかして瞬間に消えてしまったの
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